2009年6月18日木曜日

Go Krugman?

オバマ政権発足前から、アメリカ経済が立ち直るには財政政策による景気下支えしなかいとクルーグマンは主張してきた。政権発足から5か月を経た今も、彼の主張は首尾一貫しており、先日のInternational Herald TribuneのOp-Edでも、「手綱を緩めてはいけない」と景気が回復の兆しを見せ始めているとかすかな希望を抱き始めた連邦議会の議員に向けて警鐘を鳴らしていた。

100兆円規模の財政出動で、アメリカ政府の財務状況が悪化するのは確実で、各方面から財政悪化に対する懸念が広まりつつある。自由主義経済を信奉する米国においては、政府が公的資金の活用による企業救済を行うことに対しては当初から抵抗があったが、景気が底打ちを見せ、上向きつつあるという期待感から、これ以上の財政出動は適当ではないという声が更に大きくなりつつある。このような声は連邦議会内だけではなく、アメリカ国民内でも聞かれるようになっており、New York Timesが実施した世論調査では、オバマ大統領の経済運営は「景気を全く立ち直らせていないか、逆に悪化させている」との回答が過半数を超えるという事態になっている。

もう何度もOp-Edで同じ論調を繰り返してきたクルーグマンが一貫して引き合いに出すのは1930年代のルーズベルト大統領のNew Deal政策から緊縮財政への180度の方針転換である。クルーグマン曰く、アメリカ経済が恐慌後に真の立ち直りを遂げたのは第2次世界大戦以後のことで、そこまで待たなければならなかったのは景気回復の幻想の元、金利引き上げと公共投資の削減に急に舵を切ったルーズベルト大統領の経済運営にあるとのこと。また日本がバブル崩壊から立ち直るのに10年を要したのも、中途半端な財政政策によるものと指摘している。オバマ政権がここで怖気づいて、景気刺激の手綱を緩めることになれば1930年代のアメリカ、1990年代の日本と同じ轍を踏みかねないと主張している。

しかし、これ以上の財政出動によりアメリカ政府の債務が肥大化すれば、ドルの信用が低下し、中国など主要債権国の財政にも悪影響を及ぼし兼ねない。更に言うと、ドルの相対的価値が下落すれば、債券の価格が下がり、金利の押し上げ要因ともなる。金融機関の不良債権を買い取り、公的資金の注入によりある程度、信用創造のプロセスは正常に回帰しつつあるのかもしれないが、依然として企業の資金調達は厳しい状況が続いているわけで、企業にとってはこの景気悪化局面での金利上昇は死活的な問題となる。金融市場からの資金調達が難しくなれば、政府への救済を仰がざるを得ず、更に財政出動が膨らむ要因となってしまう。この流れを断ち切るには、ドルの信用を保持する、つまり緊縮財政に舵を取るのも1つの手段ではある。

マクロ経済学の常識であるが、緊縮財政に舵を取るべきタイミングは景気が回復し、ブームに向かうときである。だから、まだその時ではないというクルーグマンの主張には僕は賛同できる。ただ、かなり同じ論調が続いているので、何となく新しいことを言ってよ、という気もするけど。

0 件のコメント:

コメントを投稿