、現代社会においては正規表現を前提とした確率論では到底予測不可能な事態が発生することを強く主張しており、2008年9月のリーマンショックに端を発する未曾有の金融危機を予言していたかのような内容となっている。そのため、金融危機以降、New York Timesで大きく取り上げられるなど、話題を集めていた。
彼が指摘するように、統計解析を行っていると、当初の目的を逸れてしまうことがある。いつの間にか美しいモデルを作り上げることに没頭してしまったり、相関度の高い変数を血眼で捜してしまっていることがある。洗練されたモデルは多くの前提を排除しなければならない可能性が高く(確率は正規表現に従うというのは最たるもの)、相関度の高い2変数間には実は他の変数が介在している可能性がある。包括的で実用的な統計解析は本来であればあらゆる変数を考慮しなければならないのに、全ての変数を盛り込むことはできないという理由から、あるべき前提を排除してしまうのは本末転倒である。学問は真理を追究することにあり、何も云えないことには何らの価値も見出されない。だから、学者達はモデルの美しさに固執し、本質を見誤ってしまうのかもしれない。Talebがもしも根っからの象牙の塔の人間であれば、このような学術界に対する批判的な主張をすることはなかったのだろう。Wall StreetのTraderとして、実際に資本市場と向き合い、正規分布では語り得ない多くのUp and Downを見届けてきた経験が彼に相当強い口調のアカデミア批判をさせているに違いないと思う。
とはいえ、全てを本能に従うままに処理するというのは人間にとってどうにも心地の良いものではないのではないかと思う。確かに、彼の主張には一理あるが、じゃあ一体全体どうすればいいのさ、というもどかしさというのが正直な読後の感想。
しかし、正規分布では発生確率が極めて稀な事象が起こるのがこの世の中である、という説明は論理的でわかりやすかった。美辞麗句に騙されない心構えは持とうと思った。
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